2011年6月1日水曜日

横国仮設建築・雑感


 この時期恒例の、横国仮設建築をみに行ってきました。

詳しい情報は、AARblog に建設中の情報が更新されているので参照ください。

さて、今年の仮設建築ですが、梱包用のPPbandを縦横斜めと細かく柱状に編み込んでいき、森のような空間を演出していました。
PPbandの正確な材種はポリプロピレン。プラスチック樹脂の一種です。
最初はPPbandのみで柱を建てようとしていたようですが、強度が足りないためスチールテープ(梱包用)で補強し、柱として自立するまでに至っていました。

ここで、講評に来ていた佐藤淳さんもおっしゃっていた事なんだけど、まず自立系まで持って行ったということは十分評価出来ると思います。

佐藤さんはスチールテープで補強していたことに対してすこし残念だったとおっしゃっていてそれをわかりやすく、数式で説明してくれた。
要は材料の構造的性能を示す重要な数値として“ヤング係数”があげられるが、ポリプロピレンのヤング係数E=15[tf/cm2]であるのに対し、スチール(鉄)のヤング係数E=2100[tf/cm2]。
この帯状の構造体。崩壊形式は座屈で決まると想像できるので、座屈荷重Pcr=π2EI/L2とすれば、単純に座屈荷重は100倍以上、強くなる。

ただ、座屈の式にもあるように座屈に対して強くするには様々な方法があって

①断面を変える (板厚を2倍変化させると、座屈には8倍、幅を2倍変化させると座屈には2倍強くなる)
②スパンを減らす(スパンを1/2にすると、座屈には4倍強くなる)
③端部を固定端にする(両端ピン支持のときと比べ、座屈には4倍強くなる)
④材料を変える

もちろん断面を大きくすると、その分自重もあがるし、常に想定している荷重量と比較しながら検討をすすめなければならないだろう。
ただ、建築を学んでいけば2回生とかで学ぶごく単純な式を扱うだけで、簡単な試算はできる。
少しの計算を経て、以上の4点から改善点をみつけ、また試作することを繰り返して案をブラッシュアップしていくことの重要性を問うていた。

ここまでが、仮設建築の最終講評で述べていた佐藤淳氏の総評。
これから自分の意見を述べていきたい。

まず柱単体についてだけど、鉛直材としての設計でみれば、座屈長を抑えるように材を編み込み、要所要所をスチールテープで補強していて成立している。
これは構造的にみても的確に問題を解決しているし、その結果自立できたということはすばらしいと思います。
だた横力に対する設計、すなわち地震や風に対する配慮ははたしてどうだろうか。

不静定次数という言葉をご存知だろうか。
不安定構造・静定構造・不静定構造の判別方法は、おそらく構造力学の最初に学ぶ事である。
今回、柱はいわゆる掘立柱(片持ち)の形式となる。
片持ちということは、柱脚を剛な状態にしなくてはならない。完全な剛(固定端)にするには、地盤の状態と基礎にしっかりアンカーすることなどが求められる。
さらに構造体としても、柱脚の曲げ負担が一番大きくなる。
この柱脚部の条件が満足できないと、片持ち形式は不安定構造物となる。
不安定な状態となった場合、横力に対しては自重で抵抗している以上の転倒モーメントには耐えられない、そしてこの材料は非常に軽量である。
風に対しては満足に設計できていないと言える。

以上、構造的なレヴューとなってしまったが、総合的に1つの建築として思ったことも結構あったり。
たとえば要求された機能に対して適応できていたのかとか。
学園祭は運悪く、2年連続で悪天候となった。よって仮設建築内で予定されていたプログラムは悪天候のためY-GSAのパワープラントで行われる事となった。
しかし、ここでもし仮設建築内に面を張ることができていたらどうだろうか。
少なくとも気候には適応できるようになるし、仮設建築内で対談やその他展示などもできるかもしれない。
さらにもし面を構造材として設計できていて、それが横力に耐える機構となることも考えられるかもしれない。
横国(に限らず最近の全国の建築学生)の仮設建築は、どうも珍しい材料や工法を使いそれを自立させる架構を設計することが命題のようになってしまっているのかなあと思って、それは少し疑問に思う。
それは最近の流行や教育的な側面からある種流れのようなものを作っているのかもしれないけど。
ただ珍しい構造架構を設計するだけでは、そこで要求される機能はやはり満足できないと思う。
(これは今年に関わらず、昨年、一昨年の案に対しても同じことがいえる)

実はこのような事は被災地に視察したときから感じています。
例えば津波被害を受けた鉄骨造は梁柱のラーメン架構は倒壊せずに残り、その変形性能は高い評価をうけている。
しかし、梁柱+水平ブレースが主要構造材であるとすると、そこに付随する外内装はえぐり取られ、屋根材の地震による落下が多数報告されている。
そして主架構が残ったのみの構造体では、とてもじゃないがそこでは生活できる機能は備わっていない。
面を張ることで、ある種の建築のハードな部分で機能が与えられるとすれば、建築の面材にも一定の構造スペックが求められるべきではないか。
面材には開口や断熱材など生活に必要な機能が備わっていて、断熱性や採光、構造性能を両方満足した部材が設計できないか。(まあ修論の研究背景にも十分つながってくる訳なのですが)
なんてことをぼんやりと考えています。
これについてはまた後日ちゃんとした形で、ラーメン構造と壁式構造を対立軸に、構造史の文脈に乗せて壁式の再評価するような文章を書きたいと考えています。